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今、イタリアから日本の皆さんに伝えたいこと

外出制限中のイタリアから日本の皆さんへ

子供たちの学校閉鎖開始から1ヶ月、イタリア全土での外出制限施行から2週間が経過した。日本の死者数はヨーロッパと比べ低く抑えられており、若者の間で は「コロナ離れ」が始まっていると言う話も耳にする。今後、日本がイタリアと同じ道を辿らないようにとの強い願いを込めてこの記事を記す。


(2020年3月4日に撮影したボローニャ旧市街。まだ人々は自由に外出可能だった)


目次
1. この2ヶ月間の心境の変化
2. Q&A:日本の皆さんに伝わっているイタリアと実際のイタリア
イタリアの医療
イタリアでの物資の状況
アジア人に対する差別
3. 今、手遅れになる前に日本の皆さんに伝えたいこと


1. この2ヶ月間の心境の変化
この2ヶ月の間に、私の中でコロナウイルスに対する考え方、そして、心境が大きく変わった。おそらく、日本にいる皆さんも数ヶ月前は身に迫るものと心配されていたと思うが、最近日本から届く花見や街をマスクを付けずに移動する状況を見て、ほんの2ヶ月、いや自分の県で最初の感染者が見つかってからの1ヶ月の状況でもいいから、その間の私の気持ちの変化を知っていただくことで今回の新型コロナウイルスが普通のインフルエンザ程度のものではない、と言うことがわかっていただけるのではないかと考えている。今の日本は幸いなことに世界から「どうして?」と思われるほど感染者数や死者数が伸びていない。このまま日本で感染が広まらずウイルス終息となることを切に願うが、万が一の時に備えてこの記事を読んでいただきたい。最悪のケースを生きているイタリアからの情報を知り、日本での被害を最小限に食い止めていただきたい。


▶︎ 1月下旬:新型コロナウイルスは中国での出来事
「新型コロナウイルスで中国が大変なことになってるね。これから春節を迎えるし、中国から旅行者が押し寄せるだろうから日本も感染拡大が心配だね」と、日本の母と電話で話をしていたのが1月下旬。イタリアでも中国人旅行者2名の感染が確認されたが、しっかりと隔離されているから日本より安全と感じていた。武漢で治療にあたっていた医師が死亡したとのニュースを聞きショックを受けるが、私の中でウイルス拡大はまだまだ中国での出来事


▶︎ 2月初旬:新型コロナウイルスは日本のクルーズ船の出来事
日本に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で船内感染が拡大というニュースが流れてきた。これまで中国の出来事だったのが自分の家族の住む日本の問題となった。しかし「船の中で感染拡大を防げているから大丈夫」と思っていた。この時点では、多くのイタリア在住者にとってウイルスの感染拡大は遠い世界の反対側での出来事だったと思う。「今回のウイルスはインフルエンザと同じようなもので致死率も高くないんでしょ?」と言う会話が繰り広げられ、私もそう思って普段通りの生活をしていた。


▶︎ 2月中旬:新型コロナウイルスは日本の本州での出来事
神奈川でウイルスによる死者が出たことを知ったが、ご高齢だったため「インフルエンザでも毎年亡くなる方はいるよね」と、まだ新型コロナウイルスを大したものだと思っていない自分がいた。ただ、和歌山の医師が感染したと知り、実家が関西にあるので親のことが心配になる。


▶︎ 2月後半:新型コロナウイルスはイタリアのヴェネト州・ロンバルディア州の出来事
「イタリアでの感染は中国人旅行者2人だけで落ち着いているね」と半月ほど安心していたが、ヴェネト州において2月21日に新型コロナウイルスによる初めての死者が出た。翌22日には、ロンバルディア州でも死者1名、感染者数が39名と発表され、ロンバルディア州の10の市とヴェネト州の1つの市において公共イベント中止等を始めとする措置が発表される。「あぁ、ミラノやヴェネツィア方面、大変なことになり始めたね」と思ったが、まだ新型コロナウイルスの感染拡大は他県の話


▶︎ 2月23日(土):自分たちに出始めた新型コロナウイルスの影響&州知事の決断
ロンバルディア州での死者が発表されたその翌日、私が住むエミリア=ロマーニャ州でもミラノと隣接する地域で感染者が確認された。でも、ミラノからボローニャへやってくる電車はまだ普通に動いている。「このままではボローニャにウイルスがやってくるのも時間の問題かも?」と、とても微かだが自分の近くにウイルスが忍び寄る足音が聞こえ始めた。

そんなことを考えていたら、日曜日であったが夕方に州知事から「明日2月24日から3月1日までエミリア=ロマーニャ州全ての学校(保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学)や博物館を閉鎖」などの感染拡大の予防措置が発表された。

・イベントの中止 ・全ての学校や保育園の閉鎖
・大学の講義や試験の中止
・ミュージアムの休業
・学校行事としての旅行や遠足の中止


親たちの間では「ボローニャも学校が閉鎖になっちゃったね。これで事態が収束すればいいけど」「1週間で子供たち学校に戻れたらいいね」と言う会話が交わされたが不平不満を言うものは少なかった。それよりも、後で過剰反応だったと思うかもしれないが、大事をとり即座に予防措置を決断した州知事の判断を称賛する意見が多かったように思う。日本で同様に「明日から学校閉鎖」と前日の夕方に発表があったらどれだけ反発が出るだろうか? この時点では、まだ予防のための措置という認識。

この週、子供たちは家にいても親の仕事は通常通り。14歳以下の子供を一人で鍵っ子にするのが法律的に許されないイタリア。テレビではおじいちゃん、おばあちゃんに子供を預けて仕事に向かう母親のインタビューなどか流れていた。


▶︎ 2月28日(金):当面、最後の外食
この日は長男の誕生日。子供たちの学校は閉鎖中のため、せめて好きなものを作ってお祝いしようとリクエストを聞く。長男が「ミックスベリーと生クリームを添えたホットケーキが食べたい」と言うのでスーパーへ。州知事の措置が発表されてからSNS上で「イタリアのスーパーからパスタや消毒液が消えた」との投稿が増えたので、どんなものかと思っていたが、びっくりするほど日常の風景がそこにあり、ちょっと拍子抜けした。

この日、ロンバルディア州の措置が一段と厳しくなる。夜18時から朝6までバール(喫茶店)や夜間営業の店、娯楽施設の夜間営業が休止される等の措置が発表。「18時から時間制限で閉めるって意味あるのかな? ウイルスに時間なんて関係ないのでは?」と思っていた。しかし、我がボローニャでは、レストランは通常通りオープン。「学校閉鎖の時に外食に行くなんて」と少し思ったが「年に一度の誕生日だし、短時間で済ませればいいか」と、家族でささやかに息子のお祝いをしに行った。ウイルス感染が隣の州で拡大しているというのにレストランは満員だった。そして、これが当面、最後の外食となるとは、この時は想像もしていなかった。


▶︎ 2月29日(土):新型コロナウイルス、ボローニャへ
「来週から学校は再開するの?」と親たちのチャットグループが沸き立ち始める。1人の母親が「新しい情報ある?」と聞くと、別の母親からニュースが届いた。しかし、また別の母親が「これはフェイクニュース。冷静に州知事の記者会見を待とう」と諭す。こんな時期に州知事のコメントのフェイクニュースを流す馬鹿げた人がいるもんだ、と呆れた気持ちになる。午後に行われた州知事の会見では、予想通りもう1週間学校閉鎖が延期されるとの発表があった。その日の親たちのチャットの最後で「ボローニャ初の感染者2人確認」と言うニュースを知る。どちらもロンバルディア州を訪れた後に発症とのこと。いよいよ、新型コロナウイルスがボローニャにもやってきた。


▶︎ 3月1日(日):新型コロナウイルスに負けるな!のイベントは良かったのか?
ボローニャではこの週末、市議会議員が「コロナウイルスで危機に陥っているボローニャの文化を支援しよう」と呼びかけ「La Card Cultura」という博物館の入場が12カ月間無料になったり割引されるカードを市民に配るイニシアチブが行われた。コロナ騒ぎで塞ぎがちな市民を元気付けたいという気持ちは痛いほどわかる。


(出所:Zero


私も「こんなカードがもらえるらしいから、家族みんなで散歩がてらに行こうか?」と29日には言っていたのだが、その夜にボローニャで感染者がでたというニュースを聞いて「1人25ユーロのカードのために今リスクをとるのは賢明ではない」と、長蛇の列に並ぶのを断念。ちなみに、この週末、寒い中カードをもらった人は合計24600人。年金受給者など高齢者も列に並んでいたという記事をあらためて読み、ここでも感染があったのでは?と少し思ってしまう。


(出所:Corriere di Bologna


一方、日本の外務省のホームページでは「ロンバルディア州、ヴェネト州、エミリア=ロマーニャ州への渡航危険度をレベル1から「レベル2:不要不急の渡航は止めてください」へ引き上げるとのお知らせがあった。つい2週間前までは「コロナウイルスが流行っているから、今年の夏、日本へは行かない方がいいかもね?」と言っていたのに、立場が逆転したことにハッとする。

▶︎ 3月2日(月):誕生日会の行方
3月8日(日)に次男の誕生日会をクラスの友達2人と会場を借りて共同開催予定であったが、学校閉鎖とイベント禁止の措置がでているので、問題なく会場が使用できるのか気になり3月2日に電話を入れる。先方からは「問題なく使用できる」と回答があり、クラスメートに「予定通り誕生日会開催」と伝えると、ほとんどのクラスメートが参加の返事。来週になれば子供たちも学校が再開するから、1日早くみんなと遊んでもいいよね、という雰囲気で、まだまだみんな楽天的。

3月3日には他の母親たちと役割分担などをチャットで相談し、いよいよ買い出しに走ろうか、と考えていた4日、会場責任者から電話が。州から「人との距離を1メートル取れなければ集まってはいけないという通達が出たため、今回の誕生日会の会場予約はキャンセルとなります。ついては、予約金を取りに来てください」と。早速、会場に向かうと会場責任者から「老人に触れちゃダメだよ」と一言添えてこんな紙を帰り際に渡された。


タイトルはこうだ。「人との接触、ハグや握手は避けること。人混みを避け、高齢者は自宅に」。記事の中では「集会や会議に加え、1メートル以上の安全距離が取れない場合は屋外でのスポーツなどのイベントも禁止」また「感染の危険地域に赴いたことのない、もしくは感染の可能性がある人とコンタクトをとったことのない人でも、少しでも熱があれば自宅にいること。また、75歳以上の人、65歳以上で病気を患っている人は人だかりを避けること」と書かれている。「老人に触れちゃダメ」と言われた時は「ん? 老人に優しくしなくていいだなんてなんてことを言うんだろう?」とすぐに飲み込めなかったのだが、記事を読んで「お年寄りを感染から守るために、今は距離を取らなくっちゃいけない時なんだ」と理解する。「週末の誕生日会はなくなったけど、また1カ月もすれば日程を変更してできるようになるかな」という希望はあった。でも、先週2人だった感染者数が1週間で41人まで増えている。本当に収束へと向かっているのだろうか? ボローニャで感染者が確認される前までは結構のんびりと構えていたが、そんな状態では無くなってきているのかも?と感じるように。


▶︎ 3月5日(木):イタリア全土の学校閉鎖
この日、コンテ首相はアッゾリーナ教育相とともに記者会見を行い、イタリア全土で3月5日から15日まで学校・大学を閉鎖することを決定。北イタリアだけの問題ではなくなってきた。


▶︎ 3月7日(土):マスクがない
この日は朝から日本の母に感化されガーゼマスク作りを開始。感染予防にはならないと聞くが、自分が軽症でコロナウイルスに羅漢している場合、マスクをしていれば他人への飛沫感染を少しでも防げると信じて。


これからの季節、通常の風邪を引いたときのためにもエアロゾル(日本の耳鼻咽喉科で使用される噴霧器のポータブルバージョン。子供がいるイタリアの家庭では冬の必需品)用の薬が必要になるだろうと思って薬局へ向かう。家を出る前、夫に「マスクしていった方がいいんじゃない?」と言われ「そうだよね」と作りたてのマスクをして外出。

イタリアでは、風邪をひいても、花粉症でもマスクをする習慣がない。マスクをしている人を見ると保菌者扱いだ。先週、夫が職場で感染予防に関してマスクの重要性を話したところ「マスクなんて意味がない」と半ば同僚と口論になったと言う話を聞いていた。だから、イタリア人がマスクを使う習慣がないなら、もしかしたらウイルスの侵入を防げる高性能マスクがまだ売れ残っているかも?と薬局で聞いたところ「私たちの分さえないの。来週になったら少し入ってくるかもしれないわ」と薬剤師さんが答えた。合わせて、消毒液はあるかと聞いたら「営業マンさんの好意でスプレータイプのものは入ってきたの」と。一瞬「まだ家に消毒液はあるからいらないかな?」と思ったけど、欲しい時に手に入らないことも考えられるから本体と詰め替え1本を購入。今となっては、いい選択をした自分を褒めてあげたい。その後、スーパーに自転車で向かった。マスクをしている人は私以外おらず、品物揃えもいつも通りでパスタもちゃんとあった。そんなに深刻な状況じゃないのかな?とふと思ったが、念のため(外出時に菌を触らないようにするためにも)使い捨てゴム手袋を購入。この日の外出をもって、私は家に篭り続けることになる。

そして、この日の夜、翌日からミラノを移動制限区域とするとの措置が発表された。駅にはミラノから脱出し南へ行こうと夜行列車に乗る人の行列があったと、翌朝、多数のメディアが報じた。


(出所:Giornale di Sicilia )


▶︎ 3月8日(日):隣の県まで移動禁止区域拡大
この頃「イタリアでコロナの感染者数が増えてるけど大丈夫?」と言うメールが日本から多数寄せられた。先週までの私なら「大丈夫!モノもいっぱいあるし、インフル程度のウイルスに過剰な心配をして免疫力下げてたら意味ない!」と即答していたと思うが、この日、ボローニャの隣のモデナ県も遂に移動制限区域(レッド・ゾーン)に指定されてしまったことを受け、これまでのように気軽に外出できると思えなくなっていた。明日は先週ミラノに滞在していた友達と会う予定だったが、大事をとって会うのを延期することに決めた。「14日経って(感染していないことがわかって)安心して会いましょう」と。会えるかな?会えるといいな。


▶︎ 3月9日(月):明日からイタリア全体が移動制限区域と発表
イタリア北部で移動制限をしても、新型コロナウイルスの感染拡大が一向に収束しようとしない事態を受け、コンテ首相は明日10日から移動制限措置を全土に広げると発表。具体的な内容は以下の通り。

・必要性がない限り自宅待機
・仕事や医療目的など正当な理由で外出する場合は自己申告フォーマットの携帯が必要

・4/3日まで全国の学校閉鎖(ボローニャは2月24日に閉鎖開始)

・レストランやバールの営業を6時から18時までに制限

・図書館、公共施設、スポーツジムなどの営業休止

最初は1週間だった学校閉鎖が4月3日までに延期。合計6週間だ。長期戦になってきたことをひしひしと感じる。でも、感染者数が増え、医療現場に負担がのしかかっている今、我々ができることは「IO RESTO A CASA(私は家にいます)」を合言葉に感染しないように家にいること。


▶︎ 3月10日(火):外出制限スタート

昨日のコンテ首相の発表を受け、今日から外出制限。夫は先週から時短になっているとはいえ、相変わらず仕事へ出かける。「外出制限が出てるのに働かないといけないなんて」と少し心配になる。友達から「スーパーには長蛇の列ができてる」と言うメールが届く。「ちゃんとモノがあるのかな?」と品揃えのことを考える。スーパーに行くのが怖いことなんて気持ちはまだない。今日もマスクをしている人は2割程度で、政府が言う安全距離の1メートルをカートを使って取ったり、レジのところにガムテープを貼って対応している模様。1メートルの距離を取るより絶対マスクをした方がいいと思うが、イタリア人にはマスクをする、なければ作ると言う発想はない。また、自己申告フォーマットに関して、県外に行く時に携帯するのか、家から外出する時に携帯するのか、対応方法に関して情報が飛び交う。


▶︎ 3月11日(水):今、自分ができること
3.11から9年目。あの日、家が流されてしまったり、大切なをなくした人のことを考えると、外出できないだけで、屋根があり、家族と一緒に眠ることのできる家があることを感謝する気持ちしかない。


▶︎ 3月12日(木):首相への信頼
「食料品,生活必需品の販売店や薬局及びスーパーマーケットを除く、全ての商業及び小売り販売活動の休止を規定する」という首相令を受け、今日から夫の仕事も自宅待機となった。「よかったね!!」と夫に伝えると「このまま経済が悪くなったら大変なことになるよ」と、彼は国が経済危機に陥るのではないかと心配の気持ちの方が先にきているようだ。でも、私としては命が一番だと思うので、仕事がなくても家にいてくれた方が嬉しい。全く根拠はないが「お金はどうにかなる」という気持ちはある。楽天的な性格でよかった。そして「これまでも国民の命を最優先に速やかに決断を下してきたコンテ首相なら、国民を見殺しにするようなことはしない」と信頼できる。

夜には、イタリア全土がもれなく外出制限の中、明日13日18時から窓を開けたりベランダに出て、離れていてもみんなで楽器を演奏しようというフラッシュモブの呼びかけがあった。久々にワクワクするイベントの呼びかけに、眠っていたサクソフォンを引っ張り出した。明日は、長男はギター、次男はキーボードの鍵盤を叩き、夫はボンゴで参加しようと思う。こんな時に音楽で繋がろうとするイタリア、いいね。


▶︎ 3月13日(金):音楽のフラッシュモブ
18時前、「ベランダに出てくる人はどれくらいいるんだろうか?」と思いながら外に出ると、以外にも時間通りに人々が続々とバルコニーに登場し始めた。最初は思い思いに楽器を演奏したりしていたが、そのうち「歌える曲をお願い!」とリクエストしたり、鍋を叩いて参加いる人もいっぱい。これまで話したことのない、向かい側の建物の人とも挨拶を交わす。

「Rimaniamo distanti oggi per abbracciarci con più calore e per correre insieme più veloci domani(今日は離れていよう。明日より熱く抱き合えるように、より早く一緒に走れるように)」と言うコンテ首相の言葉が胸に響く。

(YouTube画像 出所:Global News

▶︎ 3月14日(土):医療従事者へ感謝の意を表す拍手のフラッシュモブ
昨日の音楽のフラッシュモブに引き続き、新たなフラッシュモブの連絡があった。今回は、不眠不休で頑張ってくれている医療従事者へ拍手を送ろうというもの。現場に行って力になることはできないけれど、感謝の気持ちを届けたいという発想に心がじんときて涙が出てくる。SNS上では「Restate a casa(家にいてください)」と呼びかける医師や看護婦からのメッセージが溢れていた。

▶︎ 3月15日(日):南へも感染拡大&灯りのフラッシュモブ
ミラノから多くの人が南へと降っていく夜行列車に乗り、帰省した日から1週間。やはり、想像していた通り南でも感染者が増加。自分の周りで人が次々と亡くなっているという報道を連日聞かされると、学生やひとり暮らしなら特に逃げたくなる気持ちはとても分かる。でも、南出身でボローニャに残っている友達の中には、南へ戻った人に「恥を知りなさい!感染拡大を抑えるためには家にいないといけないの!公共機関に飛び乗って愛する人を大変な目に合わせるようなことはやめて!南イタリアはこの状況に耐えられるような医療体制ができていないの」と言う声や、「今、私はじっと家にいる。会えないと、会いたい思いはどんどん募るけど、それが離れて暮らす親を守るためだから」と言う声が。ちょうど、ミラノの脱出劇と時を同じくしてイタリアから日本へ戻った人も多々いると聞くので、今後の日本のことが心配になる。私も、夫から「子供たちのことを考えたら、日本は状況が安定しているようだから帰る?」と言われたが、日本の実家には免疫力の低下している母がいる。11日から日本入国の際にPCR検査が義務付けられたとはいえ、陰性と判定された後に発症という可能性もなきにしもあらずなので、私には日本に帰るという選択肢はなかった。

さて、夜には恒例のフラッシュモブ第3弾(他にも色々と行われているはずだが私が参加した3つ目)。21時にベランダに出て、携帯でもなんでもいいから灯りを灯して、衛星からの映像に「イタリアは生きているよ」と元気なところをアピールしようというもの。今回はうちの近所は参加者が少数であったが、別の友達のところでは多くの人が顔を出していたそう。

▶︎ 3月18日(水):より厳しい措置へ
先週施行された必要な時以外は外出しないという措置を無視し、数名で集まったり、犬の散歩の際に人と接触を持つような人が絶たないため、エミリア=ロマーニャ州の知事はより厳しい措置を取ることにした。内容は、公園や庭園を閉鎖し、これまで健康のためという理由で多少であれば許可されていた散歩なども家の近くに止まるようにするというもの。若者たちは、まだ新型コロナウイルスを甘く見て、自分には関係ないことと思っているように感じられる。自分は軽症で済むとしても、大事なおじいちゃんやおばあちゃんが感染しちゃって大変なことになっていいのか?想像力の欠如に心が痛む。

▶︎ 3月19日(木):若者も犠牲に
これまで亡くなる方のほとんどが高齢者だと思っていたが、32歳の男性が死亡したというニュースが入ってきた。免疫力が弱っていたようだが、若い人も亡くなったという報道に、高齢者だけの問題ではないと、改めて外出をできる限り控えようという気になった。

(出所:BlogSicilia.it


▶︎ 3月22日(日):スーパー今週から日曜閉店&アビガンの問い合わせ
今週から日曜日はスーパーは閉鎖されることになった。働いている人のことを思ったら、1日くらい店が開いてなくても全く問題ない。買い物を計画的にすればいいだけだ。スーパーの日曜日閉店とともに昨日コンテ首相が発表したのは、明日から「イタリア全土で生活に絶対必要と判断される以外の全ての生産活動を中止する」ということ。工場での感染が多々あると指摘されているためだ。まず、何事も判断基準は「人の命が第一」

そんな中、ボローニャ在住の日本人の知り合いの元には朝から問合せが沢山あったと言う。それは「アビガン」に関して。なんでも、日本滞在中のイタリア人が「日本人がマスクもつけずに呑気に外出しているのは「アビガン」があるからだ」と、根拠のない情報を流したからだ。ご存知の通り新型コロナウイルスに関してアビガンが効果があるかどうかは臨床実験中。でも、日本人が普段のように外出している姿は、彼の目にはそうでも思わないと説明がつかなかったのかもしれない。実際、私もイタリア人の友達から「色々と記事を読んでいるんだけど、どうしても日本の感染率の低さが理解できないの。真理はどう思う?」と質問を受けた。個人的な意見として、マスクや手洗いうがいを小さい頃から教え込まれている日本国民の公衆衛生の高さや、ハグやキスをしない生活習慣、そして、日曜日の昼食を祖父母を含めた家族で集まって食べる習慣がないことが原因では、と説明したのだが、そう言いながらもイタリア同様に学校閉鎖の時に働く親が祖父母に子供を預けた話なども聞いているので、今後の日本での感染の行方が気になる。

(※ 2020年3月27日現在、当初掲載した動画はYouTubeの利用規約違反のため削除されている。
画像(イタリア語)は現在 CORRIERETV などのサイトで閲覧可能。)

▶︎ 3月23日(月):スーパーへ夫を送り出す
今日は久々に夫がスーパーへ買い出しに向かうことに。先週までなら「気をつけて!」って家に戻ってきたら手洗い、うがいして、消毒すればいい、くらいの気持ちであったが、今日はなんだか戦場に夫を送り出す気分だった。「どうか、感染しないで戻ってきてくれますように」と、子供を守る母として、夫の無事を祈ることしかできない。帰宅直後は、ドアを開けて夫を待ち構え、消毒スプレーを吹き付けて「おかえりなさい。ありがとう」と言う。そして、夫は念のためシャワー。すぐにその後、私は消毒剤を入れて洗濯機を回す。今日で子供たちの自宅待機が始まって1ヶ月。家での生活にも慣れてきた。小中学校の男の子2人がずっと外出できずに家の中にいるので動物園状態。私は飼育員のようにご飯を作り、おやつを作る。でも、こうして、家族全員が一緒に元気で生きていられることをとっても幸せに思う。

「Andrà tutto bene(きっとすべてうまくいく)」



2. Q&A:日本の皆さんに伝わっているイタリアと実際のイタリア
イタリアの現状を伝えるためにQ&A形式でコメントする。あくまでも、ボローニャに住んでいる私が考える個人的な意見に考察を少しプラスしたものとご理解いただきたい。

イタリアの医療
Q. イタリアは医療崩壊している?
A. 日本で報道されているほど、イタリアの医療がひどいわけではない。イタリアの医療はヨーロッパの中でも大変優れていると評価が高い。現在、死者が多発し、日本で映像を見られた方も多いと思われるベルガモの病院についも、BBCはヨーロッパで有数の病院だとコメントしている。つまり、医療レベルが低いのではなく、クラスター(集団感染)発生によるキャパシティーオーバーの状態。

参考までに、ボローニャでの感染者数の増加をグラフで作成してみた。


イタリア保健省(Ministero della Salute)が毎日17時に発表する県別感染者数の発表(Covid 19 - Ripartizione dei contagiati per provincia)をもとに筆者が作成
(数値が取れなかった3/1と3/7は空欄のまま掲載)

当初2名だった感染者が40名を超えるのに1週間。ボローニャのあるエミリア=ロマーニャ州では感染者が見つかる前に学校閉鎖を開始していたが、感染が多発している地域(ロンバルディア州)との交流は絶たれていなかったため感染がスタート。その後、日に日に感染者数は増加。WHOの発表によれば感染者の8割が軽症だというこの新型コロナウイルス。最初の感染者が見つかった段階で、すでに感染は広がっている可能性が高いのではないか?

また、イタリアの保健省は毎日18時に新型コロナウイウイルスの感染状況に関する記者会見を行い、以下のような州別感染者数データに加え、県別のデータを更新している。



Positivi al nCoV:コロナウイルス感染者
Ricoverati con sintomi:症状があり入院
Terapia intensiva:集中治療室
Isolamento domiciliare:自宅隔離
Dimessi/Guariti:退院/完治者
Deceduti:死者
Casi Totali:感染者数累計
Tamponi:検査数
(出所:Ministero della Salute


日本でも県別の感染者数がわかるサイトができたと聞いたので早速覗いてみた。



(出所:COVID-19 Japan


ここを見て驚いたのだが、日本の感染症病床数の少なさだ。イタリアのことを医療崩壊と言っているので、日本の病床数はさぞかし多いのだろうと予測していたが、実際に見てみるともう既に満床の県もあり、結核病床を利用して対応していることが見て取れる。これまでは「日本の公衆衛生レベルの高さ」や「人混みでくしゃみをできるだけしないようにとの配慮」、はたまた「ただ単に運が良かった」のかわからないが、クラスター(集団感染)が複数発生すれば、日本の医療もあっという間にイタリア同様にキャパシティーオーバーとなることが考えられる。

Q. ドイツで死者が少ないのはホームドクター制度があるため?
A. イタリアにもホームドクター制度はある。

Q. イタリアの医療レベルは低い?
日本のメディアではイタリアの医療で大変な思いをしたという報道があると聞く。確かに私も10年以上前に長男を出産した際にはびっくりするような対応だった。しかし、現在通院している病院は非常に的確な対応をしてくれるので決してレベルが低いとは思わない。我が街ボローニャにあるサントルソラ病院や、リッツォーリ病院は世界的にも有数の病院。

Q. ドイツは消費税が高いから医療制度が機能している?
ドイツの消費税は19%でイタリアの消費税は22%。イタリアではホームドクターの受診は無料。癌治療など特定の疾患や、出産に関しても費用は全て無料。日本の国民皆保険と並ぶほど支援は手厚いと思う。ただ、南イタリアでは医療設備が北ほど充実していないという話はよく聞く。

イタリアでの物資状況
Q. イタリアのスーパーの棚からものが消えたって本当?
エミリア=ロマーニャ州知事が学校閉鎖を決定した翌日には、スーパーからパスタ類が消えたという投稿がSNS上で多々見受けられたが、現在は食料品に不足しているものはない。

Q. マスクや消毒液は手に入る?
現在、マスクや消毒液はほとんど手に入らない。そのため、3月21日、政府はイタリアの企業に対しマスクや医療現場で必要となる保護服の生産への協力を企業に呼びかけた。24日の報道ではマスク需要の半分を国内生産予定で、不足分に関して中国へ専用機でマスクを受け取りに行くという話もされていた。

アジア人に対する差別
Q. 新型コロナウイルス騒ぎで、アジア人だからといって差別を受けたか?
イタリアの別の都市に住んでいる方のコメントで「アジア人だからウイルス扱いをされた」というような投稿を見聞きしたが、個人的に私は一度もそのような対応を受けたことはない。また、日本人の友達も不快な思いはしていないようだ。

まだウイルス感染者がボローニャにおらず、感染拡大が中国の問題だった頃に中国人経営の美容院に行ったのだが「今、コロナウイルスがニュースになっているけど、中国人だからって何か影響が出てる?」と質問したところ、「新規のお客様はないけど、私のことを知ってくれているお客様はいつも通りに来てくれている」と美容師さん。ボローニャは他都市に比べると、色々な文化を受け入れる風土があるので、それのおかげかもしれない。

今、手遅れになる前に日本の皆さんに伝えたいこと
新型コロナウイルスについて、
「子供からは感染しない?」
「若者はかからない」
「インフルエンザ程度のもので大したことない」
こんな言葉が頭を占めている人が大勢いるのではないだろうか?

以下の映像をご覧いただきたい。FacebookやTwitterなどでBrut. Japanによって提供されている「イタリア:COVID-19患者の証言」とタイトルが付けられた映像だ。

(Facebookの映像を見るには画像をクリック)

自分が新型コロナウイルスに感染して苦しむだけでなく、自分の親を感染させて殺してしまうことになった彼の苦しみを想像していただきたい。

また、イタリアでここまで感染拡大した理由の1つに、挨拶の際にキスやハグする習慣に加え、日曜日に大家族が集まってランチをするというイタリア人の家族とのつながりを大切にする人間らしい習慣が裏目に出てしまったのでは、という説もある。これに加え、子供が学級閉鎖中、親が仕事に行くために子供たちを祖父母に預けたことが高齢者の感染者数増加を促進したのではないか、という声も。


(出所:La difesa del Popolo


どれも数値的に根拠が示されているものではないが、日本でもイタリア同様に子供を祖父母に預けて仕事に行く場合も多々あったと聞く。子供は重症化しないと言う説が有力なようだが、高齢者が犠牲になる可能性は高い。

日本では花見を楽しむ人が結構いるとも聞く。そして、満員電車での通勤日々。全く別世界のようだ。イタリアよりも濃厚接触の機会が多い日本の都心部は、特に注意が必要だと思う。不必要に怖がらせるのは良くないのは重々承知しているが、自分の大事な家族の命がかかっていると思ったら、なんでも我慢できると思う。愛する家族が新型コロナウイルスに感染して亡くなり、最後のお別れにも立ち会えないというような状況が日本で絶対に起きて欲しくない。

今回、イタリアにおける新型コロナウイルスとの戦いにおいて、コンテ首相は次々と大きな決断を下している。経済がダメになることはもちろんイタリアにとっても大打撃だ。しかし、コンテ首相は一人でも多くのイタリア人の命を救うため、そして、医療現場の負担をできるだけ軽減するために全力を尽くしている。

ここで安倍首相にお願いしたい。この目に見えない敵との戦いにおいて、ワクチンや治療薬が開発されるまで、イタリアのような感染拡大のケースを参考にしながら施策を打っていただきたい。自粛を要請するだけでは、感染拡大を防げなかったのはヨーロッパ、アメリカといった国を見ても明らかだ。

日本人は「和」を尊び、人との関わりを大切にする心優しい国民だと思う。そして、他者に対する気遣いが素晴らしい。しかし、この国民の美徳によって「体調が悪くても同僚に迷惑をかけないために出社せねば」といったように無理をすることも多々あると思う。

ある施策を提案すれば、一時的に国民から大きな不満が出るかもしれない。しかし、安倍首相は今回オリンピックの延期という適切な決断を下された。前例がなく、その上見えないものに対する措置を講じるのは非常に難しいことだと思う。しかし、国民の命を第一に、日本の感染拡大阻止に全力を尽くしていただくことを切に願う。

2020年3月25日
ボローニャ在住 須飼 真理





※ こちらの文章の後半部分を抜粋し若干編集を加えたものを
 Webマガジン「SHOP ITALIA」で掲載中。


(Foto:Instagram @comunedibologna )